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【写真を生業にするということ】カメラマンQuwaaanインタビュー前編

Seiji Horiguchi

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【写真を生業にするということ】カメラマンQuwaaanインタビュー前編

Seiji Horiguchi

京都在住のカメラマンQuwaaan(クワーン)氏との初めての出会いは、僕の職場のダンススタジオが主催するイベントだった。外注のカメラマンとして会場に来た彼は、重たそうなカメラを肩からかけて会場を巡回し、何百という写真を撮る。そんな彼と仕事上のやりとりを交わしながらも、僕が抱いたのは「楽しそうに撮る人だなあ」という印象だった。また彼のインスタアカウントからは、全国を飛び回るカメラマンとしての顔、二児の父親としての顔、そして釣りやスノーボードといった趣味に全力を注ぐ男の顔など、いろんな顔が見てとれる。それらを見ているうちにいつしか「この人は一体どんな生活を送っているんだ...?」「カメラ一本でどうやって家族を養うんだ?」という疑問がわいてきた。iPhoneのカメラの性能は年々向上し、SNSの発達で、いつでもどこでも手軽に本格的な写真をアップできるようになった今、写真を撮ることを生業にしている人、それも会社に所属せず、フリーランスのカメラマンとして生きる人には、何が求められるのだろう?インタビューによってQuwaaanという人物、ひいてはカメラマンという職業について掘り下げていきたい。


アパレルスタッフからカメラマンへ

―宜しくお願いします。まずカメラマンになった経緯からお聞きしたくて。

Quwaaan : 自分の場合はなりゆきやね(笑)。 もともと20代の頃はずっとスノーボードをしてたんやけど、その時にカメラに興味を持ち出して、趣味で撮り始めました。27歳からアメ村にあるスケートブランドのアパレルショップで働き出すんやけど、その1年くらい前にスノーボードするためにニュージーランドに行ったんよ。

ニュージーランドから日本に帰ってきて少ししたくらいでカメラが壊れて、そのタイミングで一眼レフを買った。それまでは普通のコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)を使ってた。で、一眼を買ってからちゃんと撮り出したというか、「良いカメラでこそ撮れるものがある」と知って。海外に旅行に行ったときも、それで撮ったりしたね。

でも、依頼を受けてちゃんとお金をもらって撮ったのはクラブの撮影が最初かな?ただ、自分は特にパーティー好きだったわけでもなくて。音楽も全然知らんし。

―そうだったんですね!Quwaaanさんとはダンスイベントで出会ったので、意外です。

Quwaaan : 周りにDJとかダンサーが多いからね。その流れで「クラブの撮影してみない?」って話になって、まず京都のクラブでパーティースナップを撮り出した。

京都のダンスイベント「IT!!!」でのスナップ。

そんななか、本業のアパレルの方で「東京に来てセレクトを担当してほしい」って言われて。

アメ村のアパレルスタッフ時代のQuwaaan氏

―いわば昇進ですよね?

Quwaaan : 昇進やね。でも当時子どももいたし、そもそもその会社にも長くいる気もなかったから断った。そこで「何を生業にしようかな」って考えた時に、カメラで多少お金ももらってたし、機材も揃ってきてたし、カメラマンとして独立することを決めた。それが36 歳です。もちろん最初はほとんど仕事なかったけどね。東京のカメラマンと喋ったりしてるうちに「いや、このままではまずいな」ってなって。クラブのパーティースナップだけでは生きていけないし、家族も養えない。かといって具体的なプランはなかったけど「とにかくできることを増やそう」と思った。例えば照明使って影を使うことを覚えたりね。いわゆる趣味で撮る人との差が出るところを作る必要があった。

―それまではずっと独学だったわけですか?

Quwaaan : そんときどころか、ずっと独学よ!(笑) 無理やり照明機材も買ってね。デザイナーやってる知り合いに仕事を紹介してもらって、京都のダンサーとかラッパーのアーティスト写真を撮ったりするようになった。そこから少しずつ認知が広がっていって依頼も増えていって。

関西発のラップユニット、ジャパニーズマゲニーズ

 

京都出身のJAZZダンサー、REIKO

 

京都のHIPHOPクルー、DCA

 

―それにしても、36歳からカメラ一本というのは覚悟がいりますね。

Quwaaan : 友達からも「よく独立したね!」ってめっちゃ言われた(笑)。でも俺はこっちの方が向いてると思うし、不思議と怖くなかったんよ。会社に所属して自由に動けなくなる方がよっぽど怖かった。そうやって独立したとき「40歳までにしっかり仕事にできたら辞めずに続ける」って決めた。そこから続けて、ようやく仕事が安定してきたのがちょうど40歳やってんけど、そのタイミングでコロナが始まってね(笑)。それでもう全部変わった。人と対面で撮る仕事、例えばイベント撮影とかはゼロになった。

―ちょうど40歳。すごいタイミングですね…。

Quwaaan : でも逆に良い展開にもなったといえて。カメラマンのなかでも、人じゃなくて物とか風景を撮るジャンルの人はコロナの影響を受けにくかったみたい。そこで自分も知り合いのカメラマンに繋げてもらって、車とか、商品の物撮りもするようになった。その時に自分は照明を使ったライティングができたから重宝がられたね。そうやって企業からのクライアントワークもくるようになって逆に安定した。俺が化粧品とか靴の写真も撮ってるとか、ストリート界隈の知り合いはきっと知らないと思う(笑)。

―そもそも照明の勉強をしていたのが功を奏したと。

Quwaaan : あとはアパレルスタッフ時代の横の繋がりがあったのも大きかったけどね。でも、アーティスト写真における絵づくり(構図の計算)もできて、商品の写真も撮れるっていうバランスの良さは自分の強みだと思う。ここ数年でカメラってどんどん敷居が低くなってるやん?「プロのカメラマン」っていう資格があるわけでもないし、インスタもいくらでもプロのように見せられる。もちろんそれを否定するつもりはないけど、「じゃあ自分はどうしたいか・どうすべきか」を考えたとき、まずは「家族を養う」が前提にあったから人も物も両方撮るというバランスになりました。

同じ作業でも違いが生まれる!?"グッとくる"写真を撮る感性。

―素人丸出しの質問なんですが「良い写真」ってどういうものだと思いますか?

Quwaaan : きれいかどうかよりも、いわゆる一目で見て伝わる写真は「良いな~」って思うね。結局、止まっている絵からどういう情報を得られるか。それが表情なのか雰囲気なのか匂いなのか色なのかは分からないけど、そういうところまで意識して撮ってるかどうか。そこまで感じさせられるカメラマンは限られてるけどね。今、メディアで取り上げられたり、有名人が「この写真好き!」って言ったのがきっかけで有名になったりするカメラマンも多いけど、正直言うと、その人たち全員がすさまじく高い技術を持ってるわけではない。テレビとか雑誌とかSNSとか、なんでもそうやけど「今の流行りはこれ!!」って言われたら大衆はそっちにいくわけやん?でもそれって本質から離れることが多いからあんまり良くないと思ってて。写真に限らずなんでもそうやけど。

―そう考えるとメディアが持つ影響力について考えさせられますね。

Quwaaan : 「良い写真」でいうと、少し前に知り合いから、あるカメラマンの撮影のアテンドを頼まれて。自分ももともと知ってるような有名なカメラマンだったから「行くしかない!!」ってなった。そのとき来てたほかの依頼を全部断って、関西を巡るそのカメラマンに同行したんよ。

―それもまた思い切りが良い...。

Quwaaan : 俺らってただでさえ基本1人やし、誰かから助言をもらえることもない。ましてや他のカメラマンの現場を見ることなんかほとんどないからさ。即決だった。ただ、その人の撮影に同行して、間近でいろいろとその人の仕事ぶりを見た結果、やってることはそこまで変わらなかったんよ。「ここで構えて、このシャッタースピードで撮ってるな」くらいまで想像ができた。特に高い機材を使っていたわけでもないし、現場での作業を見る限り、そこまで違和感というか違いを感じなかった。それでも、あがってきた写真を見たら捉えてるところが違うのよ!

―興味深いですね!同じ作業をしていても違いが現れるという。

Quwaaan : とらえる観点が違った。それに触れられたことはかなり貴重な経験やった。「こういう部分の感覚が違うのか!!」ってわかった。そういう「感じてもらえる」写真を撮る人が好きやね。商品一個をきれいに見せる写真もいいけど、ブレてても良いから何かを感じてもらえる写真の方が個人的には好き。そういうのが撮れる人は一握りの人だと思う。

―「きれいな写真」と「グッとくる写真」というのは違うと。そういった切り取る観点や感性のようなものは、写真以外のことからインスピレーションを得ることもあるんですか?例えば映画や絵画など。

Quwaaan : 俺はあんまりないかな。それよりもカメラマンにとって重要なのは「ここ!!」って思った時に自分がカメラを持ってるかどうかだと思っていて。

―タイミングを逃さないことが重要だということですね。そういう「撮りたくなるタイミング」というのは仕事以外の日常生活でも出てきますか?

Quwaaan : もちろん普段の生活の繰り返しの中では少なくなるけど、地方とか海外に行くときは必ずカメラを持って行く。誰でも、非日常のシチュエーションに行くと「写真に残したい」って思うやん?プロも同じやね。


◉前編の記事はこちら 【フリーランスならではの嗅覚】カメラマンQuwaaanインタビュー後編

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Seiji Horiguchi

大阪在住のライター。信州大学人文学部卒。新聞記者を志す学生時代を経て、現在はダンススタジオのマネジメントに携わりながら、フリーランスのライター/編集者として、関西のストリートカルチャー中心にアーティストインタビュー・ライブレポ・ライナーノートなどの執筆を行う。 2020年には、ストリート界隈の声や感情を届けるメディア「草ノ根」を立ち上げ、ZINEの制作を行う。2022年からは、ウェブメディア「GOOD ERROR MAGAZINE」にもライターとして所属。好きなラジオは『ハライチのターン』『コテンラジオ』『問わず語りの神田伯山』。

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